秋の夜や旅の男の針仕事
ともかくもあなた任せの年の暮れ
炉のはたやよべの笑ひが暇ごひ
名月をとってくれろと泣く子かな
寝すがたの蠅追ふもけふが限りかな
めでたさも中位(ちゆうくらゐ)なりおらが春
父ありてあけぼの見たし青田原
日本記(紀)を ひねくり廻す 癖ありて
梅が香やどなたが来ても欠茶碗
花おのおの 日本魂 いさましや
又ことし娑婆塞(しゃばふさぎ)ぞよ草の家
夕燕 我には翌(あす)の あてはなき
梅さけど鶯なけどひとりかな
白壁の そしられつつも 霞みけり
爰迄(ここまで)と犬やふりむく雪礫(つぶて)
わが菊や 形(なり)にもふりにも かまはずに
木枯らしや地びたに暮るる辻諷(つじうた)ひ
小言いふ 相手もあらば けふの月
霞む日や夕山かげの飴の笛
淋しさに 飯をくふ也 秋の風