人皆あぢきなきことを述べて、いささか心の濁りもうすらぐと見えしかど、月日重なり年経にし後は、言葉にかけて言ひ出づる人だになし。
(人は皆、やるせない世の中を嘆いていくらかは煩悩も薄らぐようにも見えたが、地震から月日が経ち時が過ぎると、もう言葉にして口にする人さえいない。)
宵の間の月のかつらのうす紅葉照るとしもなき初秋の空
(夜の初めの時間、月の桂の木はまだ薄い紅葉の色で、照るともなく照っている、初秋の空。)
築地のつら、道のほとりに、飢ゑ死ぬもののたぐひ、数も知らず。取り捨つるわざも知らねば、くさき香世界に満ち満ちて、変わりゆくかたち有様、目もあてられぬ事多かり
かくおびただしく震(ふ)る事は、しばしにて止みにしかども、そのなごりしばしは絶えず。世の常驚くほどの地震、二三十度震らぬ日はなし。
十日廿日過ぎにしかば、やうやう間遠になりて、或は四五度、二三度、もしは一日まぜ、二三日に一度など、おほかたそのなごり、三月ばかりや侍りけむ。
また、同じころかとよ、おびたゝしく大地震ふること侍りき。そのさまよのつねならず。山はくづれて河を埋み、海は傾きて陸をひたせり。土裂けて水湧き出で、巌割れて谷にまろび入る。なぎさ漕ぐ船は波にたゞよひ、道行く馬はあしの立ちどをまどはす。
かれは十歳、これは六十。その齢ことのほかなれど、心をなぐさむること、これ同じ。或は茅花(つばな)を抜き、岩梨(いわなし)を採り、零余子(ぬかご)を盛り、芹を摘む。或はすそわの田居にいたりて、落穂を拾ひて穂組をつくる。
出家の後、賀茂にまゐりて、みたらしに手をあらふとみぎの手もその面影もかはりぬる我をばしるやみたらしの神
花を思ふ心をよめる思ひやる心やかねてながむらんま見ぬ花の面影にたつ
(桜を想いやる私の心は、前以て眺めているのだろうか。まだ現実には見ていない花が、しきりと面影にたつ。)
鴨社の氏人菊大夫長明入道 法名蓮胤、雅経朝臣の挙に依りて、この間下向す。将軍家に謁し奉ること、度々に及ぶと云々。
雲さそふ天あまつ春風かをるなり高間の山の花ざかりかも
(雲を誘い寄せて天を吹く春風が、ほのぼのと花の気を漂わせるようだ。高間の山は今や桜の花盛りなのだろうよ。)
まとめ
今回は「鴨長明」の名言・名セリフ集をご紹介しました。
お気に入りの名言や心に響く名言は見る人によって変わります。
「鴨長明」の名言には、今回ご紹介していないものの中にも、まだまだ名言と呼ばれるものが数多く存在するでしょう。
ぜひ自分のお気に入りの名言を見つけてみてください。